最高裁判所第三小法廷 昭和26(れ)1392 判決
主 文
本件各上告を棄却する。
理 由
弁護人小泉英一、同粟田吉雄及び同奈賀隆雄の各上告趣意は、末尾添附の別紙書
面記載のとおりである。
弁護人小泉英一の上告趣意第一点及び同第二点について。
原判決判示第二の七の鋼索が中古品や再生品であつたことは、同判決の認定して
いないところであり、又、同判示第二冒頭に作業課長と記載してあるのは、保繕課
長の誤記であること、その挙示する各証拠によつて明らかである。そして、原判決
認定に係る各犯罪事実は、その証拠説明によつてこれを首肯することが出来る。所
論は、いずれも、憲法違反を主張するけれども、その実質は、原判決が証拠として
いない証拠を捉え、又証拠の趣旨を自己に有利に解釈して、事実審たる原裁判所の
自由心証に基ずく証拠の採否を非難し、引いて、同判決の事実誤認を主張するか、
或いは、原判示の明白な誤記を捉えて、理由齟齬乃至不備を主張するに帰するので
あつて、上告適法の理由とならない。
同第三点について。
原判決が論旨の指摘するような事実摘示と擬律をしていることは、所論のとおり
である。しかし、同判決は、これを全体として観察すれば、被告人A又は同Bの本
件各行為を、その部下との共謀による違反行為と認定した趣旨であることが窺われ
る。そして、刑法六〇条の如き刑法総則の規定は、判決にその適用を明示しなくて
も違法でないこと、当裁判所に屡次の判例が存するとおりである。従つて、原判決
を以つて、理由齟齬の違法があるとすることは出来ない。論旨前段憲法違反の主張
は、既にその前提において失当である。
なお、昭和二五年法律二六七号によつて刑訴施行法に三条の二が加えられた結果、
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理由齟齬が上告申立の理由とならず、わずかに、職権による原判決破棄の理由とな
るに過ぎなくなつたことは、所論のとおりである。しかし、憲法は、審級制度を如
何にすべきかについては、その第八一条に「最高裁判所は一切の法律命令規則又は
処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である」と定
めているに止り、他に何等規定するところがないから、この点以外の審級制度は、
立法を以つて適宜にこれを定むべきものであることは、当裁判所大法廷の判例とす
るところである(昭和二二年(れ)四三号同二三年三月一〇日大法廷判決)。従つ
て、刑訴施行法三条の二が上告理由を制限し、理由齟齬を上告理由としなかつたか
らといつて、別に、違憲の問題を生ずるものではない。論旨後段憲法違反の主張は
当らない。
同第四点について。
原判示と擬律とを対照して考えると、原判決は、被告人Aの判示第一の一乃至一
〇の各物価統制令違反の一〇個の行為と同一一乃至一五の各臨時物資需給調整法違
反及び物価統制令違反の一所為数法の関係に在る五個の行為との間に連続犯の規定
を適用して、結局、物価統制令違反の一罪として処断したこと、並びに、被告人B
の所為についても、これと同様な擬律をしていることが明らかであつて、連続犯、
一所為数法の規定は、そのいずれを先に適用しても、又、同時にこれを適用しても、
妨げないのであるから、同判決を目して、所論のような擬律遺脱があるということ
は出来ない。しかのみならず、原判決は、昭和二六年五月二四日の言渡しに係るも
のであるから、同年一月四日施行の同二五年最高裁判所規則第三〇号八条が適用さ
れる筋合であつて、この規定によれば、控訴審の判決でも、法令の適用を示すには、
法令を掲げれば足りることになつており、原判決は適用した法令を掲げているので
あるから、同判決を以つて、法令の適用を遺脱した違法があると為すことは出来な
い。従つて、かかる法令違反があることを前提とする所論憲法違反の主張は、既に、
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その前提において失当である。
同第五点について。
被告人等の本件行為が緊急避難又はいわゆる期待可能性のない行為なりとする前
提たる事実は、原判決の認定していないところである。所論は、憲法違反を主張す
るけれども、その実質内容は、原判決が事実審裁判所の裁量権に基すき適法に為し
た事実の認定を非難するに帰するのであつて、上告適法の理由とならない。
同第六点について。
原判決が判示第一の一において論旨の指摘するが如き判示を為しこれに昭和二〇
年軍需省告示一〇六号を適用していること及び同告示末尾に(1)として論旨のい
うが如き規定の存することは、総べて所論のとおりである。しかし、原判決は、被
告人Aが一般照明用一〇〇ボルト二五〇ワツト電球一〇個を昭和二〇年二月二四日
軍需省告示一〇六号所定の販売業者最高販売価格より金二五〇円七〇銭超過した代
金三〇三円で買受けた旨を判示しており、右告示は一級検査合格品たる一般照明用
電球一〇〇ボルト五〇〇燭又は三〇〇ワツト迄の販売業者最高販売価格を一個につ
き金五円二三銭と指定しているのであるから、同判決は、これを基準として、超過
額を算定していることが明らかである。従つて、原判決は、判示電球を一級検査合
格品と認定した趣旨であるといわなければならない。かく見るときは、同判決には、
所論のような違法はなく、かかる違法が存することを前提とする憲法違反の論旨は、
前提を欠くものであり採用し難い。
同第七点について。
論旨は、審理不尽又は理由不備の主張であつて、上告適法の理由とならない。
弁護人粟田吉雄の上告趣意第一点について。
原判決は、被告人A又は同Bにつき、間接正犯を認めたのでもなく、又、被監督
的立場に在るC等の行為につき、被告人等の刑事責任を認めた上、更らに被告会社
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の責任を問うたのでもなくて、被告人等が被監督的立場に在るC等と共謀して、被
告会社の業務に関し、各違反取引をしたことを認定した趣旨に解すべきことは、既
に、相弁護人小泉英一の上告趣意第三点につき判断したとおりである。されば、原
判決には所論のような違法はなく、これを前提とする違憲論は前提を欠くものであ
つて失当である。
同第二点について。
所論は、原判決の罪刑法定主義違背を主張するのであるが、これを憲法第三一条
第三九条違反の主張と見るにしても、その実質は、相弁護人小泉英一の上告趣意第
一点と同様、原判決が証拠としていない証拠を基にして、同判決が適法に為した事
実認定を非難するに過ぎないのであつて、上告適法の理由とならない。
同第三点及び同第四点について。
論旨第三点は、判断遺脱の主張、同第四点は理由の齟齬乃至不備の主張であつて、
いずれも上告適法の理由とならない。
弁護人奈賀隆雄の各上告趣意について。
論旨第一点は事実誤認、同第二点は法令違反の各主張であつて、共に上告適法の
理由とならない。
なお、各論旨に鑑み、職権を以つて調査しても、本件につき刑訴四一一条を適用
すべき事由は認められない。
よつて、刑訴施行法三条の二刑訴四〇八条に則り、裁判官全員一致の意見で、主
文のように判決する。
昭和二七年二月一二日
最高裁判所第三小法廷
裁判官 井 上 登
裁判官 島 保
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裁判長裁判官長谷川太一郎は退官につき署名捺印することができない。
裁判官 井 上 登
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